私が毎日接している患者さんの中で、歯肉炎、歯周病に罹っていない方はほんの一握りです。言い換えればその罹患率は非常に高いと言うことです。
と言うことは、歯肉炎、歯周病に罹っていない方は、非常に少ないと言うことです。
そういう方々の口の中は手入れが行き届いていないと言う印象を受けます。
そのことを申し上げると、「毎日磨いています」入れ歯が汚れてどろどろの方も、「毎日きれいに洗っています」とおっしゃいます。
ところが汚い。それは磨いている気がするのと磨けているのは違うからなのです。
左上の写真は、正常な歯肉です。でも、ブラッシングなどの清掃を怠ると、「歯垢・プラーク」がたまり、徐々にのような「歯石」に変化して、そこから出る毒素が歯の周囲の骨までとかしてしまいます。これが歯周病です。結果、歯を失ってしまうのです。左下は歯石を除去する前です。
詳しくみていきましょう。

これは一番上で見たような、正常な歯肉と歯肉炎を持つ歯とその周囲の断面模型です。
奥歯の模型ですが、normalと書いてある左の方が、正常。右は歯肉炎です。

赤い歯ぐきが右では腫れているのがわかります。そして歯の表面に歯石が付着しています。歯と歯ぐきの間の溝を「ポケット」と呼んでいます。
このポケットが正常ですと1〜2mmの深さです。3mmですと歯肉炎ということになります。歯肉炎は歯の周りに歯垢(プラーク)や歯石がついたために、そこに接する歯肉が炎症を起こした病態を言います。赤い歯肉が正常な方より赤く腫れているために、その分ポケットが深くなっているのがわかると思います。(黒い歯石と黄色い歯石が見えます。黒いものは比較的年数がかかって付着したもの)

歯肉炎は歯肉が腫れているのにとどまるので、歯石の除去やブラッシング(歯磨き)の改善で正常な状態に戻すことが可能(可逆性がある)です。しかし、これを放っておくと不可逆な歯周炎(歯槽膿漏)になってしまいます。言うなれば、歯肉炎は前歯周炎病変と言うことになります。

歯周炎になると歯肉の腫れ以外に、歯を支えている周囲の骨にも炎症が波及してきます。骨が溶けてきているのがわかります。
それによってさらにポケットは深くなっていきます。ポケットが4mmを越えると歯周炎と考えて良いでしょう。

1の歯周炎初期では患者さんはまだ余り自覚症状はないかも知れません。でも、多少の歯の動揺が起こってきます。
2の歯周炎中期ではさらに骨が溶けて、悪いところでは正常の時の半分くらいまで骨が溶けてしまっています。ここまで進行すると、歯の動揺は患者さんが自覚するほどひどいものになります。口臭もひどくなり、ポケットから排膿も見受けられます。
3の歯周炎後期では動揺はさらにひどく、歯を上から押すと沈んでしまうほどです。ほとんどの場合、抜歯するしか方法がありません。
左は下の前歯の¥X線写真です。
わかりやすいように線を引いてあります。
上の模型の2の歯周炎中期くらいでしょう。
赤い線で表されているのは、骨が溶ける前の、正常だった頃の骨の状態です。
水平に骨が溶けていますね。これを水平性骨吸収と呼んでいます。

これが溶けるということは、家で言えば基礎の部分の土が無くなるに等しいことなのです。

左下は3の歯周炎後期です。もうこうなると、抜歯を余儀なくされます。
骨吸収のタイプは垂直性です。

歯を失うと言う事は、なんでもない隣の歯を削りブリッジにするか、取り外しの入れ歯にするか、もしくは高価なインプラントを埋め込むか、そのいずれかを選択しなければならなくなります。

そん(損)な事にならないように、予防と治療をしましょう。

重症の歯周病も、ブラッシング方法の改善→で短期間でこんなによくなってきています。
完治も近いでしょう。

この写真は、タバコを吸わない50歳代の男性の歯と歯ぐきです。
健康的で美しいですね。
上と下の写真と比べてみてください。
こちらは、タバコを吸う、30歳代女性の歯と歯ぐきです。
むし歯は少なく、歯周病にも罹っていませんが、下の歯ぐきに歯肉炎が認められます。
プラーク(歯垢)と歯ぐきの腫れがおわかりでしょうか?
タバコによる、歯ぐきの着色が上の健康な歯ぐきと比べると一目瞭然です。

診査で歯肉炎・歯周炎が見つかった場合、まず、患者さんに歯周病があることまた、その病態をお話しします。

治療方針をお話しします。それと平行してブラッシングについて強化するように指導します。
ブラッシングはポケットと歯と歯の間にに毛先が入るようにして小刻みに振動させます。前歯には表と裏、奥歯には表と裏と咬む面があることを意識づけます。さらにはいま自分がどこを磨いているのか意識しながら磨くようにして貰います。
上顎には前歯6本、その左右に奥歯4本ずつ、下顎も同様です。すなわち口の中を6分割して意識して磨きます
奥歯4本
前歯6本
奥歯4本
奥歯4本
前歯6本
奥歯4本

歯科医院では平行して、歯石を取る治療をします。
同様に6分割して、毎回取っていきます。

ブラッシングは必ずやってもらいます。ブラッシングの指導も受けていただきます。
歯石の除去がひと通り終了したら、歯周組織の検査をあらためて行い、ポケットの深いところなどまだ治癒していない部位を特定します。

良くなっていなかったところは、1歯ずつ麻酔下で深いところの歯石を丹念に取り、歯石がついていた根の汚染された歯面を削り取って滑沢にしたり、ポケットの中の炎症性の組織の掻爬(そうは)をしたりします。

一通り、以上の治療を終了したら、あらためて再検査を入念に行います。
で、まだ良くなっていない部位の特定とその原因をあらためて考えます。

歯肉の下の様子です。
歯石がびっしり付いて、どのくらい骨が失われているかがわかります。
こんなに深くまで歯石は付着します。
上記検査ではこのような病変を診査して把握しているわけです。
深くて外からではとてもきれいに出来ないのがおわかり頂けると思います。
特に奥歯の根の股の部分まで進行していると、非常に予後が悪くなりがちです。
歯肉を剥離してきれいにしたり、余計な歯肉を切除して整形したりする治療のステージです。

これらの治療が終了したら、また入念に検査をします。
ブラッシングのチェックも当然必要です。

ここまできちんと出来れば、相当の確率で歯周炎の治療は成功します。
良くないところは再度これを繰り返します。
ただし、麻酔下での外科的処置を伴うわけですから、患者さんへの説得、そして理解が得られなければとても出来ない治療ですし、現在は保険制度下で、ほとんど制約無くこれらの治療は行えるものの、まだまだ歯科医師が考えているようにするには厳しい面もあるのが事実です。
さらには、前述のように全身的要因を抱えている患者さんでは、なかなか治ってくれないこともあります。ブラッシングもそうです。これを継続してやってもらえないと、治療は失敗します。
良くなったところは定期的にメインテナンスです。
これは6番目の歯を抜歯したあと放置したため、7番目の歯が前に倒れてしまった症例(模型)です。
このような症例では、7番目の歯の前側のポケットの回復はまず望めないのです。
この場合は倒れた分だけ、起こしてあげる治療が必要です。これを矯正治療で治します。

このほかにもいろいろなケースがあり。理屈通りにはなかなか治らないことも多々あるのです。糖尿病の患者さんなんかもそうですね。

あなたもこのような健康な歯と歯ぐきになりませんか?
携帯ホームページの歯肉炎・歯周病治療のページもご覧下さい。御自分の歯ぐきとくらべると正常なのかそうでないのかがわかります。

詳しくは、院長・歯科衛生士まで、お気軽におたずね下さい。